古民家で深める土と火の循環:自家製堆肥と薪づくりで叶えるエネルギー・食の自給
古民家で育む、土と火の豊かな循環
古民家でのエコな暮らしは、単に省エネルギーや再生可能エネルギーの活用に留まらず、自然との調和の中で物質やエネルギーを循環させるシステムを構築することを目指す場合が多くあります。中でも「土」と「火」は、生命を育み、暖をもたらす根源的な要素であり、これらを暮らしの中で循環させることは、持続可能なライフスタイルを深く追求する上で非常に重要なテーマとなります。
本稿では、古民家ならではの広い敷地や庭、そして薪ストーブという設備を活かした、自家製堆肥づくりと薪づくりによる「土と火の循環」の実践について、その具体的な方法、メリット、そして「暮らしのリアル」に基づいた体験や工夫をご紹介いたします。
自家製堆肥で叶える豊かな土づくり
自家製堆肥づくりは、古民家から出る有機性廃棄物(生ゴミ、庭の落ち葉や剪定枝、菜園の残渣など)を貴重な資源として活用し、健全な土壌を作るための基盤とする取り組みです。これにより、購入する肥料の量を減らし、ゴミの削減にも繋がります。
堆肥化の基本原理
堆肥化は、微生物の働きによって有機物が分解され、植物が利用しやすい安定した物質へと変化するプロセスです。主に好気性微生物(酸素を必要とする)による分解と、嫌気性微生物(酸素を必要としない)による分解があります。一般的に、臭いが少なく比較的短期間で高品質な堆肥を得やすいのは好気性堆肥化です。
古民家での具体的な堆肥づくり
古民家では、広い庭や敷地を活かして様々な方法で堆肥づくりに取り組むことができます。
- 堆肥枠(オープンコンポスト): 木材やブロックで囲いを作り、有機物を積み上げて好気性堆肥を作る最もシンプルな方法です。通気性が良く、大量の有機物を処理できますが、雨や風の影響を受けやすく、切り返し(混ぜて通気性を確保する作業)の手間がかかります。落ち葉や剪定枝など、庭から大量に出る有機物の一次処理に適しています。
- 密閉型コンポスト容器: 市販されている蓋つきの容器を使用する方法です。雨や虫の侵入を防ぎやすく、比較的コンパクトに設置できます。家庭から出る生ゴミ処理に多く用いられますが、適切な水分量や通気性の管理が重要です。密閉性が高すぎると嫌気性発酵が進み、悪臭の原因となる場合があります。
- 湛水式コンポスト: 土中に穴を掘り、水を張りながら有機物を投入し、嫌気性発酵を促進する方法です。臭いが出やすい、時間がかかるというデメリットがありますが、特別な容器が不要で、液肥も得られます。
- 電動式生ゴミ処理機: 高温で乾燥・分解させるタイプや、微生物の力で分解を促進するタイプなどがあります。手軽に始められますが、初期投資やランニングコストがかかります。
古民家暮らしでは、庭で出た大量の落ち葉や剪定枝を堆肥枠で積み上げ、キッチンからの生ゴミは密閉型容器や地域によってはコンポストトイレ(別の機会に詳しくご紹介するテーマです)で処理するなど、複数の方法を組み合わせている方も多くいらっしゃいます。
失敗談と克服策
- 臭い: 嫌気性発酵が進んでいる可能性が高いです。水分が多すぎる、酸素が不足している、窒素分(生ゴミなど)と炭素分(落ち葉、剪定枝など)のバランスが悪いなどが原因として考えられます。解決策としては、切り返しを行って通気性を良くする、おがくずや落ち葉などの炭素資材を混ぜる、投入量を調整するなどがあります。
- 温度が上がらない: 微生物の活動が鈍い証拠です。材料の量が少ない、水分が少ない(または多すぎる)、窒素分が不足しているなどが考えられます。ある程度の量がないと中心温度は上がりにくいです。米ぬかや油粕などの窒素分を少量加えたり、切り返しで酸素を供給したりすることで微生物の活動を活性化させます。
完成した堆肥は、見た目が土のようになり、元の材料が判別できなくなります。これを菜園や庭木の根元に施肥することで、土壌の物理性(水はけ、水もち)、化学性(保肥力)、生物性(微生物相)が改善され、植物の生育を促進します。
薪づくりで叶えるエネルギー自給
古民家では、薪ストーブが導入されているケースが多く見られます。薪ストーブは、炎の揺らぎによる心地よい暖房効果だけでなく、適切に運用すれば再生可能なエネルギー源である薪を利用した、持続可能な暖房システムとなります。さらに、自分で薪を調達・加工する「薪づくり」は、単なる燃料調達に留まらない、豊かな体験をもたらします。
薪材の調達
薪材の主な調達方法としては、以下のものがあります。
- 敷地内の木: 庭木の手入れや伐採で出る木材を利用します。
- 周辺の間伐材や倒木: 森林組合や自治体、山林所有者から払い下げを受けたり、許可を得て採取したりする方法です。
- 製材所からの廃材: 家具工場や建築現場から出る端材などを譲り受ける方法です。ただし、塗料などが付着している場合は使用に注意が必要です。
適切な薪となるのは、広葉樹(クヌギ、ナラ、カシなど)が多く、ゆっくり長く燃える性質があります。針葉樹(スギ、ヒノキなど)は着火しやすく火力が強いですが、燃焼時間が短く、タールが煙突に付着しやすい傾向があります。
薪づくりの手順
- 伐採(必要な場合): 安全に十分配慮し、適切な技術と装備で行います。専門業者に依頼することも検討します。
- 玉切り: 伐採した木材や調達した原木を、ストーブの炉のサイズに合わせて丸太状に切断します。チェーンソーを使用するのが一般的です。安全ゴーグル、ヘルメット、チェンソーパンツ、安全靴などの保護具は必須です。
- 薪割り: 玉切りした丸太を割り、乾燥しやすいように表面積を増やします。斧を使用する手割り、油圧式や電動式の薪割り機を使用する方法があります。割りたての木は「生木(なまき)」と呼ばれ、水分を多く含みます。
- 乾燥: 割った薪を積み上げ、風通しの良い場所でしっかりと乾燥させます。少なくとも1年、できれば2年乾燥させると、水分率が20%以下になり、効率よく燃焼させることができます。雨ざらしにならないよう、屋根付きの薪棚に保管します。
- 保管: 乾燥した薪を使用する場所の近くに運び、保管します。
失敗談と克服策
- 乾燥不足: 水分が多いと火がつきにくく、煙が多くなり、煙突のタール付着の原因となります。計画的な薪づくり(2年分を確保する)と、風通しの良い場所での適切な薪の組み方(井桁積みなど)が重要です。
- 保管場所: 雨に濡れない、風通しが良い、虫がつきにくい、使用場所から近い、といった条件を満たす薪棚の設置場所と構造を工夫する必要があります。
- 体力と時間: 薪づくりはかなりの体力と時間を要する作業です。無理のない範囲で、計画的に進めることが大切です。家族や地域の人々と協力して行うのも良い方法です。
土と火の循環が生み出す豊かな暮らし
自家製堆肥づくりと薪づくりは、それぞれ単独でも価値ある取り組みですが、これらを連携させることで、より統合的な循環システムが生まれます。
例えば、庭木の剪定で出た枝のうち、薪にできない細い枝葉や、薪割りで出た破片、樹皮などは、粉砕機にかけてチップにし、堆肥の材料として活用できます。また、薪ストーブで燃やした後の灰は、アルカリ性であるため、酸性に傾きがちな畑の土壌改良材として利用することができます(ただし、大量の施肥は土壌バランスを崩す可能性があるため、土壌診断に基づき少量ずつ施肥するなど注意が必要です)。菜園で出た残渣や、堆肥で育てた野菜のクズは再び堆肥となり、このサイクルが回ります。
この「土と火の循環」の実践は、単なる経済的なメリット(燃料費や肥料代の削減)に留まりません。
- 自然との繋がり: 季節の移り変わりの中で土や木と向き合い、自然の恵みを直接的に受け取る感覚は、豊かな精神性をもたらします。
- 身体を動かす喜び: 薪づくりや堆肥の切り返しは、適度な運動となり、健康的な暮らしに繋がります。
- 持続可能性の実感: 資源を無駄なく使い切り、自然の循環の中に自分たちの暮らしを位置づけることで、持続可能性を肌で感じることができます。
- 地域との交流: 薪材の調達や薪割りイベントなどを通じて、地域の人々との新たな繋がりが生まれることもあります。
これらの取り組みは、手間や時間はかかりますが、その分、得られる「暮らしの質」や「心の豊かさ」は計り知れません。古民家という、もともと自然との距離が近い場所で、この「土と火の循環」を意識した暮らしを実践することは、現代社会において失われつつある、本質的な豊かさを再発見することに繋がるのではないでしょうか。
課題と展望
「土と火の循環」は、決して容易な道のりではありません。天候に左右される作業、継続的な管理の手間、体力的な負担など、様々な課題があります。しかし、これらの課題を乗り越える過程で得られる知恵やスキル、そして達成感は、大きな自信に繋がります。
将来的には、地域全体で森林資源を共有・管理する仕組みや、有機性廃棄物を地域内で循環させるシステムを構築するなど、より大きなスケールでの「土と火の循環」を目指すことも考えられます。
古民家で暮らす私たちが、自然の循環の中に自身の暮らしを位置づけ、手間を惜しまず土と火に向き合うこと。それは、未来世代へ美しい環境を引き継ぐための、小さな一歩であると同時に、私たちの暮らしを根源から豊かにする、確かな一歩なのです。