わたしの古民家再生ストーリー

古民家で深化させるエネルギー自給:HEMS/BEMSで実現する再生可能エネルギー最適活用

Tags: HEMS, エネルギーマネジメント, 再生可能エネルギー, 自給自足, 古民家

古民家エコライフの次の段階:エネルギーマネジメントシステムへの誘い

古民家を再生し、断熱・気密性能を高め、太陽光発電や蓄電池、薪ストーブといった再生可能エネルギー設備を導入されてきた読者の皆様にとって、次の関心事は「エネルギーの賢い使い方」、すなわちエネルギーマネジメントではないでしょうか。単にエネルギーを創り、貯めるだけでなく、いつ、どのエネルギーを、どのように使うかを最適化することで、エネルギー自給率を最大化し、快適性と省エネを両立させること。これは、より深く持続可能な暮らしを目指す上で避けては通れないテーマです。

特に古民家においては、現代の高気密高断熱住宅とは異なる構造や暮らし方があり、エネルギーの流れも独特です。複数の再生可能エネルギー源(太陽光、薪など)や、多様な熱需要(暖房、給湯、調理)が存在するため、それらを統合的に管理し、最適な状態で運用することは、単なる見える化を超えた高度なシステムが求められます。

この記事では、古民家におけるエネルギーマネジメントシステム(HEMS/BEMS)の導入に焦点を当て、その技術的な側面、具体的な導入のプロセス、そして実際に取り組む上での課題や工夫、暮らしにおけるリアルな効果について、実践者の視点から掘り下げていきたいと思います。

HEMS/BEMSとは何か:エネルギーの「見える化」と「最適制御」

まず、HEMS(Home Energy Management System)やBEMS(Building Energy Management System)とは何か、基本的なことから確認しておきましょう。これらのシステムは、住宅や建物全体のエネルギー使用状況を「見える化」し、さらに様々な設備(エアコン、照明、給湯器、蓄電池、太陽光発電システム、EV充電器など)を統合的に管理・制御することで、エネルギー消費の最適化を目指すものです。

主な機能は以下の通りです。

  1. エネルギーの見える化: 家全体の、あるいは機器ごとの電気、ガス、水などのエネルギー使用量をリアルタイムで把握できます。時間帯別、日別、月別などのデータとして表示されるため、どこでどれだけエネルギーが使われているかを客観的に分析できます。
  2. 機器制御: スマートフォンやタブレットなどから、離れた場所にある機器のON/OFFや設定変更が可能です。
  3. 最適制御: これがエネルギーマネジメントシステムの核心です。エネルギー使用量、発電量、蓄電量、天気予報、さらには電力会社の料金プラン情報(時間帯別料金など)といった様々なデータを基に、AIなどが最適なエネルギーの流れを判断し、機器を自動で制御します。例えば、太陽光発電の余剰電力を蓄電池に充電したり、その電力を使ってエコキュートを沸き上げたり、あるいはEVを充電したりといった制御を行います。電力価格の高い時間帯には蓄電池からの放電を優先するといった制御も可能です。

古民家で複数の再生可能エネルギー設備や省エネ設備を導入している場合、これらの設備がバラバラに稼働するのではなく、HEMS/BEMSによって統合的に連携することで、エネルギー自給率の向上、無駄の削減、そして快適性の維持を両立することが可能になります。

古民家におけるHEMS/BEMS導入の技術的側面と課題

HEMS/BEMSの導入は、いくつかの主要な構成要素から成り立ちます。

これらの要素を連携させるためには、通信が必要です。家庭用HEMSの標準通信規格としては「ECHONET Lite」があり、Wi-SUNという無線通信方式が使われることが多いです。その他、有線LANやWi-Fiなども利用されます。

古民家においてHEMS/BEMSを導入する際には、現代住宅にはない特有の課題に直面することがあります。

  1. 既存設備の互換性: 太陽光発電システム、蓄電池、給湯器、エアコンなど、既に設置済みの機器がHEMS/BEMSとの連携規格に対応していない場合があります。特に古い機種では、対応アダプターの設置や機器自体の更新が必要になることもあります。
  2. 複雑な配線: 増築や改修を繰り返した古民家では、配線ルートが複雑に入り組んでいることがあります。センサーの設置や各機器との連携配線工事が難航する可能性があり、無線通信を利用する際も、厚い壁や土壁が電波を遮蔽し、通信が不安定になるリスクがあります。
  3. システム選定の難しさ: HEMS/BEMSメーカーは複数あり、それぞれ得意とする機能や連携可能な機器が異なります。ご自身の導入済みの設備や今後導入予定の設備、そして実現したいエネルギーマネジメントのレベルに合わせて、最適なシステムを選定することは容易ではありません。
  4. 導入後の運用・設定: システム導入後も、電力料金プランの変更や新たな設備の追加に合わせて設定を見直したり、日々のエネルギー使用状況を確認したりといった運用が必要です。これらを使いこなすには、ある程度の知識や慣れが求められます。

古民家でのHEMS/BEMS実践:工夫と体験談

これらの課題に対して、古民家でのHEMS/BEMS導入を成功させるための工夫がいくつかあります。

実際に古民家でHEMSを導入された方の体験談を伺いました。

「我が家では築100年を超える古民家をセルフリノベーションし、太陽光発電(5kW)と蓄電池(10kWh)、そしてエコキュートを設置しました。当初は個別のリモコンやアプリで管理していましたが、それぞれの稼働状況を把握するのが難しく、特に蓄電池の充放電が思ったように制御できていませんでした。」

「そこで、HEMSの導入を決意しました。既存の太陽光PCSと蓄電池、エコキュートがHEMS連携に対応しているかメーカーに確認し、対応機種だったので、システム本体と設置工事の見積もりを取りました。工事は想定通り、分電盤周りの配線に少し時間がかかりましたが、無事連携が完了しました。」

「導入後、まず驚いたのはエネルギーの見える化です。時間帯ごとに『どこから(太陽光、電力会社)、どこへ(家の中、蓄電池、売電)』電力が流れているかがグラフで明確に分かりました。これを見て、例えば昼間に家にいる時は極力エアコンを太陽光で賄うように意識したり、エコキュートの沸き上げ時間を電力単価の安い時間帯や太陽光の余剰が出やすい時間帯に設定変更したりと、具体的な行動が変わりました。」

「最も効果を実感したのは、HEMSによる最適制御が始まり、太陽光の余剰電力を蓄電池に充電し、夕方から夜にかけて自動で放電してくれるようになったことです。導入前は日中の自家消費率が約40%程度でしたが、HEMS導入後は蓄電池やエコキュートへの自家消費が最適化され、約70%まで向上しました。これにより、電力会社から購入する電力量が大幅に削減され、電気代も目に見えて安くなりました。単なる見える化だけでなく、自動制御による効果は大きいと感じています。」

「もちろん、システムの設定変更やアップデートなど、多少の手間はありますし、初期投資もかかりましたが、エネルギーの流れをコントロールできているという実感は、エコな暮らしをさらに深める上で大きな満足感をもたらしています。何より、停電時にも蓄電池からの電力供給をHEMSが自動で管理してくれるという安心感は、古民家で暮らす上で非常に心強いです。」

コストと効果:投資対効果を考える

HEMS/BEMSの導入には、システム本体価格と設置工事費がかかります。システムの種類や連携機器数によって費用は変動しますが、一般的には数十万円から100万円以上となることが多いです。

この初期費用に対して、期待できる効果は以下の通りです。

導入費用をランニングコスト削減効果で回収するまでの期間(投資回収期間)は、一般的に10年以上になることが多いですが、補助金制度を活用することで、初期費用負担を軽減し、回収期間を短縮できる場合があります。国や自治体によっては、HEMSや蓄電池導入に対する補助金制度が設けられていることがありますので、情報収集は必須です。ただし、最新の制度については、必ずご自身で公的な情報をご確認いただくようお願いいたします。

持続可能な暮らしにおけるHEMS/BEMSの意義

古民家におけるHEMS/BEMSの導入は、単に便利さや経済性を追求するだけでなく、持続可能な暮らしを深化させる上で重要な意義を持ちます。

まず、エネルギーの使用状況を正確に把握し、無駄をなくすことは、地球環境への負荷を減らすことに直結します。また、再生可能エネルギーを最大限に自家消費することで、化石燃料への依存を減らし、エネルギーの自給自足に近づくことができます。

さらに、HEMS/BEMSによってエネルギーの流れが「見える化」され、コントロールできるようになることは、私たち自身のエネルギーに対する意識を変えます。「いつ、何に、どれだけエネルギーを使っているのか」を知ることで、無意識の消費を減らし、より計画的で責任あるエネルギーの使い方を実践できるようになります。これは、現代社会において失われがちな、自然のサイクルや資源の有限性に対する感性を取り戻す一助となるのではないでしょうか。

将来的には、地域内で再生可能エネルギーを融通し合うバーチャルパワープラント(VPP)のような仕組みに、HEMS/BEMSを通じて自宅のエネルギーシステムが連携する可能性も考えられます。個々の取り組みが、より大きな持続可能な社会システムの一部となる道も開けるかもしれません。

まとめ

古民家におけるHEMS/BEMSの導入は、既にエコリフォームや再生可能エネルギー設備の導入に取り組まれている方にとって、エネルギー自給率をさらに高め、より快適で持続可能な暮らしを実現するための有効な次のステップです。

既存設備の互換性や古民家特有の配線・通信環境といった課題は存在しますが、計画的なシステム選定、有線/無線通信の適切な組み合わせ、そして段階的な導入といった工夫により、これらを乗り越えることは十分に可能です。

導入によるランニングコスト削減効果やレジリエンス強化といったメリットに加え、エネルギーの流れを「見える化」し、自らコントロールできるようになることは、暮らしそのものに対する意識を変え、持続可能性へのコミットメントをより深いものにしてくれるでしょう。

HEMS/BEMSは、単なる便利な機器ではなく、エネルギーと私たち自身の暮らし、そして地球との関係性を再構築するためのパワフルなツールと言えるかもしれません。ご自身の古民家と暮らしに合わせて、エネルギーマネジメントシステムの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。